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探検 XMLボキャブラリの世界 第2回

第2回:印刷のボキャブラリ ~JDF,JMF,PrintTalk~

2008年2月14日 更新
著者:岸 和孝(JAGAT客員研究員)

前回は,ホームページのボキャブラリとしてXHTMLの概要を取り上げました。今回は,印刷業が製造工程で扱う自社の情報を運ぶコンテナとして注目されているJDF,JMF,PrintTalkについて調べてみました。JDF/JMFについては,すでにPage2006で見聞され,どんなものかを知っている読者もおられるでしょうが,恥ずかしながら筆者は,つい最近までJDF/JMFの基礎知識は全く持っておりませんでした。最近になってジャストシステム社のXMLオーサリングツールであるxfyのケーススタディとしてJDF/JMFのビューワーを開発し始めたことがきっかけで,その概要がようやく見え始めたところです。なんとも覚束ない話になりそうで恐縮ですが,話を進めさせていただきます。

ジョブチケット

最初にJDF/JMFの資料を読んで奇異に感じたのは,「job ticket」がそのまま「ジョブチケット」と音訳されていることでした。チケットには「伝票」という意味もありますが,演劇のチケット,駐車違反のチケットといった「切符」を連想しました。確かに辞書によれば,「job ticket」は「work sheet」とほぼ同義であって,「作業要領の指示と実働時間の記録に用いる伝票」を意味しますが,わが国で「ジョブチケット」という用語を使っている企業はどのくらいあるのか疑問です。

外来語が日本語に対応しない全く新しい概念を指す言葉であれば,カタカナ表記もやむを得ませんが,「ジョブチケット」は企業で現在使われている各種の「伝票」と同じですから,「電子伝票」と訳すほうがいいように思えます。とは言え,「仕事の流れ」を「ワークフロー」と呼ぶのも,手作業とコンピュータ処理を区別しているのかもしれません。ここでは混乱を避けるために「電子伝票」ではなく「ジョブチケット」のままにしておきます。

周知の通り,印刷会社では見積りから製造を経て納入までの工程において,多くの「伝票」が作られ,それらの工程で参照されています。入口における「見積書」や出口における「納品書」は,多くの場合,紙媒体に表わした伝票になりますが,すでに生産管理をコンピューター化している印刷会社では,中間工程における「作業指示書」や「実働報告書」などはディスプレイ上に表わされています。

現時点の多くの生産管理システムは,XML形式ではない独自のデータ形式で「伝票」を表しています。実際に,営業担当者から見れば,ある顧客の印刷物の進捗状況がディスプレイ上で確認できれば,内部のデータ形式の種類は何でもかまわないはずです。では,今なぜ「ジョブチケット」が注目されているのでしょうか。

JDF

「ジョブチケット」の先頭に「JDF(Job Definition Format)」を付けると,XML化されたジョブチケットを意味します。JDFとは文字通り「作業定義形式」と訳せます。「JDFジョブチケット」は,JDFというXMLボキャブラリに基づいて,最終的な印刷物についての必要条件あるいはその製造指示を記述したXMLデータを指す用語です。

さらに作業指示に応じてデータベースから取り出されたデータも「JDFジョブチケット」に書き加えられます。それは,紙媒体に表わされた「作業指示書」に担当者が作業に関わるさまざまな事柄を手で書き加えることと同じです。一般に,コンピューター処理は,手作業のアナロジー(相似)ですから,「JDFジョブチケット」は「作業指示書」と同じように働きます。

では,今なぜ「JDFジョブチケット」なのでしょうか。その理由として次のようなことが考えられます。先ず,顧客と印刷会社の双方でPDFによる電子的入稿が増加し,それと直結できるPOD(Print on Demand Printer)が実現したことによって,印刷工程の全面的な自動化が現実的になってきました。ちなみに,PDFには「JDFジョブチケット」を付与できるようですが,私は具体的に利用したことはありません。

次に,前回に述べた通り,XML方式の採用によって,情報システムの運用効率がよくなり,開発や保守に関わる費用が節減できる,という見通しがあります。とりわけ,複数の異なるベンダーの,異なる機材を組み合わせた製造工程の制御システムを構築する上で,異機種をつなぐ接着剤としてのXMLへの期待が高いことです。印刷機材ベンダーは,顧客側のXML対応が進めば,印刷会社側のXML対応も弾みがつくはず,とシナリオを描いています。

ここで,具体的なJDFジョブチケットをちょっと見てみましょう。図1は,例としての「図説クロスメディア」という印刷物の必要条件を記述したJDFジョブチケットの書き出し部分です。実際の記述はこの後に延々と続きますが,紙面の関係から割愛させていただきます。これを私が試作中のJDFビューワーで表示した結果を図2に示します。

▼図1 JDFジョブチケットの例

<?xml version="1.0"?>
<JDF ID="000012301" JobID="0000123-01" Type="Product" Status="Waiting"
     DescriptiveName="図説クロスメディア" 
     Version="1.1"  ICSVerions="Bace_L1-1.0 MISBC_L1-1.0" >
  <CustomerInfo CustomerID="00000002">
    <Company Class="Parameter" OrganizationName="(社)日本印刷技術協会" />
    <Contact Class="Parameter" ContactTypes="Customer">
      <Company Class="Parameter" OrganizationName="(社)日本印刷技術協会" />
      <Person Class="Parameter" FamilyName="桃" FirstName="太郎" />
      <Address Class="Parameter"Region="東京都" 
               City="杉並区" Street="和田1-29-11" PostalCode="166-8539" />
      <ComChannel Class="Parameter" Locator="03-3384-3168" ChannelType="Phone" />
      <ComChannel Class="Parameter" Locator="03-5385-7185" ChannelType="Fax" />
    </Contact>
  </CustomerInfo>

▼図2 ビューワーで見たJDFジョブチケット

voc02-fig1.png

JMF

JDF,JMF,PrintTalkの仕様を開発しているCIP4(The International Cooperation for the Integration of Processes in Prepress, Press and Postpress)の説明によれば,JDF/JMFは,印刷作業を説明する「作業指示書」を表わし,印刷工場におけるすべての製造装置のための共通の制御言語となる,さらにJDF/JMFは,MIS(Management Information System)に手段を与えるものである,としています。

こうした目標は,どのXMLボキャブラリの開発団体でも広げている大風呂敷ですが,理想は低いよりも高いほうがいいでしょう。しかし,その行く手には,現在稼働している印刷機械が高額かつ長寿命のために,プリプレス関係のパソコンやワークステーションのように新陳代謝が進まないという悩ましい現実的な問題が立ちはだかっています。

さてJDF/JMFのもう片方の「JMF(Job Messaging Format)」は,JMFというXMLボキャブラリであり,文字通り「作業通信形式」と訳せます。JMFで表わされるデータ(メッセージとも言います)は,各種の製造装置に対するプリセットなどの指示や実働状態です。つまり,JMFメッセージによるデータ通信によって,MISの側から製造工程の進捗をリアルタイムで把握でき,作業指示を適時出せるようになります。

JMFメッセージは,Webと同じプロトコル(つまり,HTTP)で通信されます。WebにおけるHTTPは,HTMLデータを運ぶものですが,SOAPに従ってXMLデータも運べるようになっています。ですからXMLデータであるJMFメッセージも運べるわけです。このことは,利用者にはどうでもいい話ですが,システム全体の構築を容易にする選択です。

PrintTalk

最後に,PrintTalkについて手短にお話ししましょう。PrintTalkは,顧客と印刷会社との間で取り交わされる印刷物の見積り要請から承認を経て発注までの情報を表すXMLボキャブラリです。PrintTalkは,BtoBの電子商取引向けのXMLボキャブラリであるcXMLの系譜につながっています。

現在,印刷会社が扱うコンテンツは川上から川下まで電子的に流れるようになりました。そうしたワークフローと並行して,PrintTalk/JDFによって見積りから作業指示を経て納品までの管理情報を製造設備と関連づけて一貫した流れに乗せ,印刷のCIM(Computer Integrated Manufacturing)を実現することがCIP4の提唱するところです。

このようにCIP4の仕様書は極めて壮大で,印刷史の総決算を感じさせるほどです。その開発エネルギーはどこから湧いてくるのか,と私はただただ圧倒されて消化不良気味です。後日改めてお話ししたいと思います。

社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)
PrintersCircle 2006年8月号より転載
探検 XMLボキャブラリの世界

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